「資金調達は、事業を成長させるための”金集め”だ」。
もしあなたが、心のどこかで少しでもそう思っているなら、この記事を読み進めてください。
かつての僕がそうだったように、その考えがあなたの事業を崖っぷちに追い込む、致命的な罠かもしれないからです。
こんにちは。
2度の事業失敗を乗り越えた、資金調達の“翻訳家”、神崎渉です。
僕はこれまで、自分の会社を2度潰しかけました。
一度目は、プロダクトへの自信から資金調達を軽視し、黒字倒産という屈辱を味わいました。
二度目は、3億円という大金を手にした代わりに、会社の魂を売り渡し、志半ばで経営の座を降りました。
どちらの失敗も、原因はたった一つ。
資金調達を単なる「金集め」としか捉えていなかったからです。
この記事を読んでいるあなたも、きっと同じような悩みを抱えているのではないでしょうか。
「事業は順調なのに、なぜか資金繰りが苦しい」
「投資家に会っても、事業の価値をうまく伝えられない」
「どの資金調達の方法が、自分の会社に合っているのか分からない」
その孤独な戦い、痛いほど分かります。
だからこそ、僕の失敗談が、あなたの航海の羅針盤になればと心から願っています。
この記事を読み終える頃、あなたは資金調達の選択肢という「地図」を手にし、自社が進むべき「航路」を自分の意思で決められるようになります。
もう二度と、投資家の前で言葉に詰まることはありません。
自信を持って自社の価値と未来を語るための「武器」と「鎧」を、あなたに授けます。
さあ、始めましょうか。
目次
なぜ、あなたの資金調達は失敗するのか?僕が犯した2つの致命的な過ち
失敗談1:プロダクトに自信過剰で黒字倒産。「金集め」と軽視した僕の末路
28歳で初めて立ち上げたEdTechサービスは、我ながら画期的なものでした。
ユーザーの反応も上々で、売上も右肩上がり。
僕は「良いものさえ作れば、金は後からついてくる」と本気で信じ込んでいました。
当時の僕にとって、資金調達は「頭を下げてお金を借りる行為」、つまり単なる「金集め」に過ぎませんでした。
プロダクト開発に没頭するあまり、銀行や投資家と話す時間を惜しみ、キャッシュフローの管理を完全に怠っていたのです。
その結果、何が起きたか。
売上は立っているのに、入金サイクルと支払いサイクルのズレで、手元の現金が底をつきました。
いわゆる、黒字倒産です。
月末、社員への給与が払えないと分かった時の、あの血の気が引く感覚。
事業の可能性を信じてくれた仲間たちの顔。
今でも、夢に見ることがあります。
この時、僕は骨身に染みて理解しました。
資金は、事業にとっての「血液」なのだと。
失敗談2:3億円調達の裏で魂を売った日。「誰から」を無視した代償
一度目の失敗から猛省した僕は、2度目の起業では資金調達を徹底的に勉強しました。
事業計画書を何十回と書き直し、あらゆる投資家に頭を下げて回りました。
その甲斐あって、シリーズAで3億円という、当時の僕には目もくらむような大金の調達に成功したのです。
しかし、これが二つ目の過ちの始まりでした。
僕は「いくら調達できるか」という金額にばかり囚われ、「”誰から”調達するか」という最も重要な視点が抜け落ちていたのです。
僕が出資を受けたベンチャーキャピタルは、短期的な利益を最優先する、いわゆる「数字至上主義」の会社でした。
彼らが送り込んできた役員によって、僕が大切にしていたプロダクトの思想や顧客への想いは、次々と「非効率」という言葉で切り捨てられていきました。
売上は伸びました。
会社も大きくなりました。
しかし、そこに僕が夢見た未来の姿はありませんでした。
「金は手に入れたが、魂を売ってしまった」。
そう悟った時、僕は会社を去る決意をしました。
2つの失敗から得た唯一の真実:「資金調達はビジョンを共有する仲間探しである」
キャッシュが尽きる恐怖。
投資家に魂を売る虚しさ。
この両極端な失敗を経験して、僕は一つの真実にたどり着きました。
それは、資金調達とは「金集め」ではなく、「ビジョンを共有する仲間探し」である、ということです。
あなたの事業という船が、どこを目指して航海しているのか。
その航海の目的(ビジョン)に心から共感し、嵐が来ても一緒に乗り越えてくれる仲間(投資家)を見つける旅。
それが、資金調達の本当の意味なのです。
この視点さえ持てれば、あなたはもう道に迷うことはありません。
資金調達の「地図」を手に入れる:デットとエクイティ、その本質的な違い
さて、資金調達が「仲間探しの旅」であると理解したところで、まずは航海に必要な「地図」を手に入れましょう。
資金調達には、大きく分けて2つのルートがあります。
「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」です。
専門用語に聞こえますが、心配いりません。
僕が翻訳します。
デットファイナンスとは?一言でいうと「他人の時計で走る短期レース」
デットファイナンスとは、一言でいうと「借金」です。
銀行からの融資などがこれにあたります。
これは、ゴールとルールが明確な短期レースに似ています。
借りたお金(元本)と、そのレンタル料(利息)を、決められた期間内に返す。
ただそれだけです。
メリットは、経営の自由を奪われないこと。
レースの走り方(経営方針)に、いちいち口出しされることはありません。
デメリットは、必ず返済義務が生じること。
レースの途中で転んでしまっても(業績が悪化しても)、時計の針は止まってくれません。
エクイティファイナンスとは?一言でいうと「自分たちの船で挑む大航海」
エクイティファイナンスとは、会社の未来の価値の一部(株式)を渡す代わりに、出資してもらう方法です。
ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資がこれにあたります。
これは、まだ見ぬ新大陸を目指す「大航海」に似ています。
出資者(投資家)は、船の乗組員としてあなたの船に乗り込んできます。
彼らから受け取ったお金は、返す必要がありません。
その代わり、彼らは船の所有権の一部を手にし、航海の進め方について意見する権利(議決権)を持ちます。
メリットは、返済不要の大きな資金を得られることと、投資家という経験豊富な航海士が仲間になることです。
デメリットは、経営の自由度が下がること。
船長であるあなたの意思だけで、航路を180度変えることは難しくなります。
【崖っぷち問答】あなたの会社はどちらの航路を選ぶべきか?
さて、今日の崖っぷち問答です。
あなたの会社は、どちらの航路を選ぶべきでしょうか?
もし、あなたの事業が短期的に安定した収益を見込めるビジネスモデルで、経営の主導権を100%自分で握っていたいのであれば、「短期レース」であるデットファイナンスが向いているでしょう。
一方で、今は赤字でも、将来的に大きな成長が見込める革新的な事業に挑んでいて、資金だけでなく、事業を加速させるための知見やネットワークを持つ仲間が欲しいのであれば、「大航海」であるエクイティファイナンスを選ぶべきです。
どちらが良い、悪いではありません。
あなたの船がどこを目指しているのか。
それによって、選ぶべき航路は自ずと決まるのです。
エクイティファイナンスという「大航海」の羅針盤:投資家選びの絶対原則
多くのスタートアップにとって、大きな成長を目指すための航海、つまりエクイティファイナンスは避けて通れない道です。
しかし、この航海は危険に満ちています。
羅針盤なしに漕ぎ出せば、僕のように座礁してしまうでしょう。
ここからは、その羅針盤となる「投資家選び」についてお話しします。
投資家は「天使」ではない。彼らの本当の目的を理解する
エンジェル投資家、という言葉があります。
まるで、困っている起業家に手を差し伸べてくれる天使のようですが、断言します。
彼らはビジネスマンです。
彼らの目的は、あなたに出資したお金を、将来あなたの会社が成長した際に何倍、何十倍にもして回収すること(キャピタルゲイン)です。
もちろん、あなたのビジョンに共感し、応援してくれる気持ちはあります。
しかし、それはあくまでビジネスとしての成功が大前提です。
この事実を冷静に理解してください。
彼らを「お金を出してくれる良い人」と見るのではなく、「利害を共にするビジネスパートナー」として捉えること。
これが、対等な関係を築くための第一歩です。
「誰から」調達するかが9割。理想のパートナーを見つける3つの視点
僕が2度目の失敗で学んだ最大の教訓。
それは、資金調達は、「誰から」調達するかが9割だということです。
調達額の大小よりも、誰を船に乗せるかの方が、100倍重要です。
では、理想のパートナーはどう見つけるのか?
以下の3つの視点を忘れないでください。
- 同じ地図を持っているか?(ビジョンへの共感):あなたの目指す新大陸の場所に、心からワクワクしてくれる人ですか?短期的な利益ではなく、長期的なビジョンを共有できるかを見極めてください。
- 経験豊富な航海士か?(専門性とネットワーク):あなたの事業領域に詳しく、嵐を乗り切るための知見を持っていますか?また、あなたの航海に役立つ他の仲間(人材や取引先)を紹介してくれるネットワークを持っていますか?
- 対話ができる船長か?(人間性と相性):最も重要なのがこれです。意見が対立した時、高圧的な態度ではなく、建設的な対話ができる相手ですか?人として尊敬でき、この人となら何年も一緒に戦えると心から思えるか。最後は、あなたの直感を信じてください。
タームシートは「結婚前の約束事」。魂を守るために確認すべき必須項目
投資家との間で「ぜひ、一緒に航海しましょう!」と合意に至ると、「タームシート」という書類を交わします。
これは、投資の基本的な条件を定めたものです。
難解な法律用語が並んでいますが、一言でいうと「結婚前の約束事」です。
結婚してから「こんなはずじゃなかった!」とならないために、お互いのルールを事前に決めておく、結納のようなものだと考えてください。
特に、あなたの魂、つまり経営の自由度を守るために、以下の項目は弁護士などの専門家を交え、必ず自分の目で確認してください。
- 株式の比率:あなたは船の所有権をどれだけ手放すのか?
- 役員の派遣:相手は船に誰を送り込んでくるのか?
- 拒否権:船長であるあなたの重要な意思決定を、誰が覆すことができるのか?
ここでの安易な妥協が、数年後の自分を縛る鎖になることを、絶対に忘れないでください。
数字の裏にある「物語」を語れ:投資家の心を動かす事業計画書の作り方
理想のパートナー候補が見つかったら、次はいよいよプロポーズです。
事業計画書という「ラブレター」で、あなたの船がいかに魅力的で、一緒に航海する価値があるかを伝えなければなりません。
事業計画書は「宝の地図」。ただの数字の羅列では誰もついてこない
多くの起業家が、事業計画書を「数字の計画書」だと勘違いしています。
市場規模、売上予測、利益計画…。
もちろん、それらの数字は重要です。
しかし、投資家が本当に知りたいのは、その数字の裏にある「物語」です。
なぜ、あなたがその宝島(市場)を目指すのか。
どんな困難を乗り越えて、そこにたどり着くのか。
そして、宝を手にした先に、どんな世界を創りたいのか。
あなたの事業計画書は、投資家をワクワクさせる「宝の地図」になっていますか?
ただの数字の羅列では、誰も命を懸けてあなたの船に乗ろうとは思わないでしょう。
あなたの「Why」を語る:原体験とビジョンこそが最強の武器
では、どうすれば物語を語れるのか。
答えは、あなた自身の中にあります。
なぜ、あなたはこの事業を始めようと思ったのですか?
そこには、必ずあなただけの「原体験」があるはずです。
社会への怒り、誰かを助けたいという想い、純粋な好奇心。
その生々しい感情こそが、あなたの物語の源泉です。
そして、その原体験から生まれた「どんな世界を実現したいか」というビジョンを、あなたの言葉で語ってください。
小難しいマーケティング用語は必要ありません。
あなたの「Why」が、どんな精緻なデータよりも強く、投資家の心を動かすのです。
失敗談から学ぶ、投資家から絶対聞かれる質問と「100点の回答」
僕も数えきれないほど投資家と面談しましたが、必ず聞かれる「キラークエスチョン」があります。
そして、多くの起業家がここで言葉に詰まります。
それは、「この事業の最大のリスクは何ですか?」という質問です。
かつての僕は「特にありません。我々のプロダクトは完璧ですから」と答えて、失笑を買いました。
これは最悪の回答です。
100点の回答はこうです。
「最大のリスクは〇〇です。なぜなら△△だからです。しかし、それに対して我々は□□という対策をすでに打っています」。
リスクを正確に認識し、それに対する打ち手を冷静に語れること。
それは、あなたが荒波を乗り越える覚悟を持った、信頼に足る船長であることの何よりの証明になるのです。
結論:あなたの孤独な航海は、今日で終わりにする
まとめ:資金調達の本当の意味を、もう一度
ここまで長い航海にお付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、この記事の「宝の地図」をもう一度振り返りましょう。
- 資金調達は「金集め」ではなく、「ビジョンを共有する仲間探し」である。
- 資金調達の地図には「デット(短期レース)」と「エクイティ(大航海)」の2つの航路がある。
- エクイティファイナンスでは、調達額より「誰から」調達するかが9割を占める。
- 事業計画書では、数字の裏にあるあなたの「物語」を語ることが、投資家の心を動かす。
この記事を読んだあなたが、明日まずやるべきことリスト
知識は、行動して初めて力になります。
この記事を閉じた後、あなたが明日からすぐに取り組むべきことをリストアップしました。
- 自社の「Why」を300字で書き出す:なぜ、あなたはこの事業をやっているのか?原体験とビジョンを文章にしてみてください。これがあなたの羅針盤の核になります。
- 理想の投資家像を3つ挙げる:どんな専門性、どんなネットワーク、どんな性格のパートナーと航海に出たいか、具体的に書き出してみましょう。
- 地元の商工会議所や公庫に電話してみる:まずはデットファイナンスの専門家と話してみるのも一つの手です。彼らは地域の事業の強い味方です。
最後に伝えたいこと:あなたは一人じゃない
資金調達の旅は、本当に孤独です。
誰にも相談できず、たった一人でプレッシャーと戦っている経営者を、僕はたくさん見てきました。
かつての僕も、そうでした。
でも、この記事をここまで読んでくれたあなたは、もう一人ではありません。
資金調達の本質という「地図」と、投資家と対等に渡り合うための「武器」と「鎧」を手にしました。
あなたの航海は、まだ始まったばかりです。
これから何度も嵐に見舞われるでしょう。
しかし、ビジョンという名の北極星を見失わず、信頼できる仲間と共に進めば、必ず目的地にたどり着けると僕は信じています。
この記事が、あなたの孤独な航海の、信頼できる羅針盤となることを心から願っています。
頑張ってください。
応援しています。