資金調達の「心構え」と「基本戦略」

デットとエクイティ、あなたの会社はどちらを選ぶべきか?元起業家が“翻訳”する究極の選択。

「良いものさえ作れば、金は後からついてくる」

かつての私は、本気でそう信じていました。
初めて立ち上げたEdTechサービス。プロダクトには絶対の自信があった。
しかし、半年後、私の手元にあったのは、山のような請求書と、底をついた銀行口座の預金残高だけ。
売上は立っているのに、キャッシュが回らない。
いわゆる「黒字倒産」という、経営者にとって最も屈辱的な結末でした。

この身をもって学んだ、たった一つの真実があります。
それは、「資金は、事業の血液だ」ということです。
血液がなければ、どんなに優れた頭脳や強靭な肉体も、ただの置物になってしまう。
あなたの素晴らしい事業も、同じです。

この記事を読んでいるあなたも、かつての私と同じように、資金調達という名の暗い海の真ん中で、たった一人、羅針盤もなく漂っているのかもしれません。
「デット?エクイティ?専門用語ばかりで、何が違うのか分からない」
「銀行とVC、どちらの扉を叩けばいいんだ?」
「誰に相談すればいいのか、孤独で押しつぶされそうだ」
その気持ち、血の滲むような想いで、私にはよく分かります。

でも、安心してください。
この記事は、あなたのための「羅針盤」です。
2度の事業失敗で5億円以上の授業料を払った私が、あなたの水先案内人となります。
この記事を読み終える頃、あなたは資金調達の選択肢という「地図」を手にし、自社が進むべき「航路」を自分の意思で決められるようになります。
もう二度と、投資家の前で言葉に詰まることはありません。
さあ、あなたの航海を始める前に、一つだけ約束させてください。
あなたは、決して一人ではありません。

そもそもデットとエクイティとは?航海の前に「船」と「地図」を“翻訳”する

資金調達の海へ漕ぎ出す前に、まずは最低限の装備を整えましょう。
デットとエクイティ。
この二つの言葉を、私の言葉で“翻訳”します。

デットファイナンス:「他人の時計」で走る短期レース

デットファイナンスを一言で“翻訳”するなら、それは「借金」です。
銀行や日本政策金融公庫などからお金を借りて、事業の燃料とする方法ですね。

なぜ私がこれを「他人の時計で走る短期レース」と呼ぶのか。
それは、借りたお金には必ず「返済期限」というゴールテープが設定されているからです。
そして、その時計の針を進めるのは、あなたではなく、お金の貸し手です。
決められた期日までに、利息という名のレンタル料を上乗せして返さなければならない。
これが、デットファイナンスの大原則です。

エクイティファイナンス:「自分たちの船」で挑む大航海

一方、エクイティファイナンスを“翻訳”すると、「仲間集め」になります。
これは、あなたの会社の株式の一部を渡す代わりに、事業の未来に共感してくれた投資家からお金を出してもらう方法です。
ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの出資が、これにあたります。

なぜ「自分たちの船で挑む大航海」なのか。
株を渡すということは、相手に船の乗組員になってもらうのと同じだからです。
彼らは単なる乗客ではありません。
嵐が来れば一緒に船の舵を取り、宝島が見えれば共に喜びを分かち合う、運命共同体。
そして何より、この航海には「返済」という名の強制的な寄港地はありません。
手に入れた資金は、自分たちの船を修理し、より大きな帆を張るために、自由に使えます。

一目でわかる!デットとエクイティ究極の比較表

言葉だけではイメージが湧きにくいかもしれませんね。
二つの違いを、一枚の「海図」にまとめてみました。

比較項目デットファイナンス(短期レース)エクイティファイナンス(大航海)
一言でいうと借金仲間集め(出資)
返済義務あり(元本+利息)なし
経営への影響ほぼない(ハンドルは自分で握れる)あり(株主が増え、経営権が薄まる)
資金の出し手銀行、日本政策金融公庫などVC、エンジェル投資家など
メリット経営の自由を保てる返済不要で、大きな挑戦ができる
デメリット返済プレッシャー、倒産リスク経営の自由度が下がるリスク

どうでしょう。
こうして見ると、両者は全く性質の異なる「船」であることが分かるはずです。
どちらの船に乗るべきか。
それを判断するために、私の恥ずかしい失敗談を、もう少しだけお話しさせてください。

【私の失敗談①】デットファイナンスの光と影――黒字倒産の悪夢

最初の起業で、私はデットファイナンスを選びました。
いや、正確には、それ以外の選択肢を知らなかったのです。

メリット:“経営の自由”という名の、甘美な果実

デットの最大のメリットは、何と言っても経営の自由を100%保てることです。
会社のハンドルは、完全に自分の手の中にありました。
誰にも口出しされず、自分の信じるプロダクト開発にすべての情熱を注ぎ込める。
この「自由」は、起業家にとって何物にも代えがたい、甘美な果実です。
私もその果実の味に酔いしれていました。
「誰にも文句は言わせない。俺のやり方で成功させてやる」と。

デメリット:「キャッシュが尽きる恐怖」と返済義務という重い錨

しかし、その自由には重い代償が伴います。
それが「返済義務」という、船底に積まれた重い、重い錨(いかり)です。
売上は順調に伸びていました。
しかし、取引先からの入金は2ヶ月後。一方で、融資の返済は毎月やってくる。
このズレが、私の首を真綿で締め上げるように、少しずつキャッシュを奪っていきました。
通帳の残高が日に日に減っていく恐怖。
月末が近づくたびに、心臓が凍りつくような感覚。
あれは、経験した者でなければ分からない、地獄の苦しみです。
そして、ついにその日はやってきました。黒字倒産です。
デットファイナンスは、経営の自由という翼を与えてくれる一方で、一歩間違えれば事業という船そのものを沈めてしまう、重い錨にもなるのです。

あなたの会社がデットを選ぶべき「3つの条件」

この痛恨の失敗から、私はデットファイナンスが有効なケースは限定されると学びました。
もし、あなたの会社が以下の3つの条件を満たすなら、デットは力強い追い風になるでしょう。

  1. 事業モデルが確立し、安定したキャッシュフローが見込める時
  2. 設備投資や仕入れなど、短期的な運転資金が必要な時
  3. 経営の意思決定権を、何があっても1ミリたりとも手放したくない時

逆に言えば、まだ売上の見通しが立たない創業期に、安易にデットに手を出すのは、嵐の海にコンパスもなく漕ぎ出すようなものだと、私は断言します。

【私の失敗談②】エクイティファイナンスの甘い罠――魂を売ったあの日々

一度目の失敗にこりごりした私は、2度目の起業ではエクイティファイナンスに舵を切りました。
猛勉強の末、シリーズAで3億円の資金調達に成功。
天にも昇る気持ちでした。

メリット:返済不要の資金と、夢を語り合える仲間

返済義務のない3億円。
この資金がもたらしてくれた安心感は、計り知れませんでした。
もう月末の支払いに怯える必要はない。
これでアクセルを全開で踏み込める。
さらに、出資してくれたVCの担当者は、まさに「仲間」でした。
業界の知見は豊富で、素晴らしいネットワークも紹介してくれた。
夜通し事業の未来を語り合ったことも一度や二度ではありません。
「これこそが、俺の求めていた理想の航海だ!」と本気で思っていました。あの時までは。

デメリット:「金の奴隷」になった日。経営権を失うということ

問題は、私が資金調達を急ぐあまり、契約書(タームシート)の交渉を拙速に進めてしまったことでした。
一言でいうと、「魂を売ってしまった」のです。
事業が成長するにつれ、VCからのプレッシャーは日に日に強くなりました。
「なぜ、このKPIが達成できないんだ?」
「我々の提案する戦略を、なぜ実行しない?」
彼らが見ていたのは、短期的なリターン。私が見ていたのは、長期的なビジョン。
いつしか、両者の間には深い溝が生まれていました。
何かを決めるたびに、株主である彼らにお伺いを立てなければならない。
私はいつの間にか、自分の船の船長ではなく、彼らの意向を汲んで動く「金の奴隷」になっていたのです。
事業は成長しました。しかし、そこに私の魂はありませんでした。
結局、私は志半ばで、自ら創った会社を去ることを決意しました。

あなたの会社がエクイティを選ぶべき「3つの航路」

この苦い経験は、「株を渡す」ことの本当の重みを教えてくれました。
それは、結婚に似ています。
安易な妥協は、必ず未来に禍根を残す。
それでも、エクイティファイナンスがあなたの航海に不可欠な時があります。

  1. プラットフォーム事業など、大きな先行投資が必要で、ハイリスク・ハイリターンな挑戦をする時
  2. 事業の立ち上げフェーズで実績がなく、金融機関からの借入が極めて難しい時
  3. 資金だけでなく、事業をスケールさせるための専門的な知見やネットワークを持つ「強力な仲間」がどうしても欲しい時

重要なのは、誰を船に乗せるか、その見極めです。

究極の問い:あなたの会社は「誰」と船に乗るべきか?

さて、今日の崖っぷち問答を始めましょうか。
ここまで読んで、あなたはこう思っているかもしれません。
「結局、デットとエクイティ、どっちがいいんだ?」と。
その問いに、私はこう答えます。

資金調達は「額」より「誰から」が9割。私が断言する理由

私の2度の失敗は、突き詰めれば原因は一つです。
それは、調達「額」ばかりに目を奪われ、「誰から」調達するのかを真剣に考えなかったこと。
お金は、ただの数字ではありません。
そのお金には、出し手の思想、哲学、目的という「色」がついています。
短期的な利益を求める相手から借りたお金は、あなたを短期レースへと駆り立てるでしょう。
長期的なビジョンに共感してくれる相手から得たお金は、あなたの大航海を支える帆となるはずです。
だからこそ、資金調達は「誰から」が9割なのです。

デットの相手選び:“翻訳”する金融機関

  • 日本政策金融公庫:「起業家の最初の優しい味方」。実績のない創業者にも比較的寛容で、無担保・無保証人の制度も充実しています。まず最初に相談すべき相手です。
  • 制度融資:「地元とタッグを組む安心プラン」。地方自治体や信用保証協会が間に入ることで、銀行からの融資のハードルを下げてくれます。地域に根差した事業なら、力強い味方になります。
  • 銀行(信用金庫など):「事業が軌道に乗ってからの頼れるパートナー」。実績が出て、事業が安定してきたフェーズで、より大きな金額を調達する際の選択肢となります。

エクイティの相手選び:“翻訳”する投資家

  • ベンチャーキャピタル(VC):「短期成長を求めるプロの航海士」。数年でのIPOやM&Aによる高いリターンを求めます。経営への関与も積極的。急成長を目指すなら最高のパートナーですが、プレッシャーも相当なものです。
  • コーポレートベンチャーキャピタル(CVC):「事業シナジーを求める大企業の船団」。事業会社が運営しており、自社事業との連携を重視します。彼らの目的とあなたの事業が合致すれば、強力なバックアップが得られます。
  • エンジェル投資家:「個人の想いで帆を張ってくれる、気まぐれだが心強い天使(?)」。元起業家など個人の富裕層です。意思決定が早く、創業初期の最大の理解者になってくれる可能性があります。ただし、その名の通り本当に「天使」かどうかは、見極めが重要です。

最後の崖っぷち問答:あなたの背中を押すQ&A

最後に、多くの経営者から寄せられる質問に、私の経験からお答えします。

Q1. 両方を組み合わせる「ハイブリッド戦略」はアリか?

答えは、大いにアリです。
むしろ、それが王道だと考えてください。
ただし、順番とバランスが極めて重要です。
例えば、創業初期は日本政策金融公庫からの融資(デット)で堅実に足場を固め、プロダクトが完成し市場の反応が見えた段階で、一気にスケールさせるためにVCから出資(エクイティ)を受ける。
このように、事業のフェーズに合わせて両者を使い分けるのが、最も賢い航海術です。

Q2. 事業計画書という「宝の地図」で、投資家が本当に見ているものは?

もちろん、市場規模や収益予測といった数字の整合性は見られます。
しかし、プロの投資家が最後に見ているのは、そこではありません。
彼らが見たいのは、数字の裏にある、あなたの「物語」です。
「なぜ、この事業をあなたがやる必要があるのか?」
「どんな困難があっても、この船から逃げ出さないと信じられるか?」
あなたの原体験、情熱、覚悟。それらが滲み出た「宝の地図」こそが、人の心を動かすのです。

Q3. 結局、どのタイミングで調達に動くのが正解なのか?

一つだけ確実なことがあります。
「資金が尽きそうになってから」では、100%手遅れです。
資金調達は、あなたが思うよりずっと時間がかかる、長い長い航海です。
相手を探し、交渉し、契約を結ぶまで、半年かかることもザラにあります。
ですから、キャッシュが尽きる少なくとも半年前、いや、理想を言えば1年前には動き出すべきです。
常に、燃料計を確認しながら、次の給油ポイントを見据えておく。それが船長の務めです。

まとめ:さあ、あなたの航海を始めよう

長い航海にお付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、これまでの内容を、あなたの船のコンパスに刻み込んでください。

もう迷わない!デットとエクイティ選択のための最終チェックリスト

  • あなたの事業は、売上が安定的に見込めるフェーズか? → YESならデットも有力な選択肢
  • あなたの事業は、大きな先行投資が必要なモデルか? → YESならエクイティを検討すべき
  • あなたは、経営のハンドルを絶対に手放したくないか? → YESならデットを選ぶべき
  • あなたは、資金だけでなく共に戦う仲間が欲しいか? → YESならエクイティが相応しい
  • あなたは、「誰から」調達するかを真剣に考え抜いているか? → すべての問いの基本

この記事を読んだあなたが、明日まずやるべき「3つのこと」

精神論で終わらせるつもりはありません。
具体的なネクストアクションを、あなたへの宿題とさせてください。

  1. 自社の現状(事業フェーズ、キャッシュフロー)を、一枚の紙に書き出す。
  2. 3年後、あなたの会社がどこに辿り着いていたいか、その理想の姿(ビジョン)を言語化する。
  3. そのビジョンを実現するために、デットとエクイティ、どちらが「手段」として相応しいか、この記事を片手にもう一度、たった一人で考え抜く。

資金調達は、孤独な戦いです。
しかし、正しい知識という「羅針盤」があれば、必ず進むべき航路は見えてきます。
この記事が、あなたの孤独な航海を照らす、一筋の光となることを願ってやみません。

さあ、顔を上げてください。
あなたの航海は、今、始まったばかりです。